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名古屋高等裁判所 昭和60年(ネ)546号 判決 1985年12月11日

静岡県浜松市<以下省略>

控訴人(一審被告)

名古屋市<以下省略>

被控訴人(一審原告)

右訴訟代理人弁護士

福岡正充

正村俊記

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決中、控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

一  控訴人の請求原因

原判決事実摘示第二項記載の通りであるから、これを引用する(但し、原判決七枚目表九行目に「出資法」とあるのを「出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律(以下「出資法」という。)」と訂正し、同七枚目裏六行目に「(民法九六条)」とあるのを削除する。)。

二  控訴人の主張

1  控訴人は、原審相被告豊田商事株式会社(以下「訴外会社」という。)の指示で販売活動を行ったものにすぎないから、控訴人個人には損害賠償義務はない。また、控訴人は被控訴人の主張するような発言をしていないし、被控訴人は納得ずくで本件売買を行ったものである。

2  訴外会社は被控訴人との間で本件売買契約を解約するに際し、契約金の五六パーセントにあたる二八八万四九三九円を返還することによって示談解決した。従って控訴人には損害賠償義務はない。

理由

一  訴外会社の金塊販売の方法(原判決事実摘示二2(一)ないし(三))は、公知の事実というべきところ、当時訴外会社名古屋金山支店の営業部係長であった控訴人が担当して、訴外会社が被控訴人に対し原判決添付購入明細表記載の日時に金塊を同表記載の量・金額で売渡す契約を結び、同時に訴外会社が被控訴人から五年間これを預かり、その間時価の一五パーセントの賃料名義の金員を被控訴人に対して支払ういわゆる純金ファミリー契約をも締結し、昭和五九年一〇月二七日、被控訴人から五一五万六二五〇円の金員の支払を受けた事実は、控訴人において明らかに争わないのでこれを認めたものとみなす。

二  以上の事実を前提とし、これに控訴人が原審において相被告たる訴外会社と同様口頭弁論期日に出頭せず、控訴人のみは控訴したものの当審において立証活動も行わないという本件弁論の経過をも参酌して判断すると、控訴人は、訴外会社の指示によって業務として本件売買行為をしたことは自認して争わないところ、同人の会社における地位および業務の内容からすれば、控訴人は、本件売買による代金名目の金員が被控訴人に返還されない事態がいずれ生ずることを予見しながら、あえて被控訴人より販売代金名下に五一五万六二五〇円を交付せしめたものと認められるから、控訴人の右販売行為は被控訴人に対する違法な侵害行為と認むべく、控訴人は被控訴人に対し右による損害を賠償すべき義務がある。

三  控訴人は、被控訴人が訴外会社と前記売買契約を合意解約するに際し、示談したことによって被控訴人の損害賠償請求権は消滅したと主張する。

しかしながら、仮に控訴人主張のような示談契約が成立しているとしても、右は被控訴人と訴外会社間に成立したものであって、被控訴人の控訴人に対する本件不法行為に基づく損害賠償請求権に消長を来たすべき筋合いのものではない。よって、控訴人の右主張は、右示談契約のもつ効力の点に立入るまでもなく、既にこの点において失当というべきである。

四  損害について

1  被控訴人が、その後訴外会社から前記売買代金中二八八万四九三五円の返還を受けたことは、被控訴人の自認するところである。従って、本件不法行為による物的損害は右の残金たる二二七万一三一五円となる。

2  本件弁論の全趣旨によって窺われる被控訴人の年令、生活状況からみて、本件不法行為により被控訴人が精神的苦痛を被ったことは容易に推認できる。そうして、右苦痛に対し、本件においては慰謝料が支払われるべきこと及びその額は二〇万円が相当であることについては、原判決理由説示三の2のとおり(但し、同所一行目の「原告が」から二行目の「自白が成立している。」までの部分を除く。)であるから、これを引用する。

3  弁護士費用については、原判決理由説示三の3を引用する。

五  以上の通りであるから、被控訴人の本訴請求を右四の1ないし3の合計額たる二七一万八三一五円およびこれに対する不法行為の翌日である昭和五九年一〇月二八日以降完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を認める限度で認容し、その余を棄却した原判決は相当である。よって本件控訴は失当であるから棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 小谷卓男 裁判官 海老澤美廣 裁判官 笹本淳子)

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